チャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》全曲 ダノン指揮 YouTube動画公開

オペラあけおめ、ことよろ!1時間後の20時から、ピョートル・チャイコフスキー 《エフゲニー・オネーギン》 全幕のロシア語日本語対訳字幕付きYouTube動画を公開します。翻訳は梅丘歌曲会館の藤井宏行さまです。

対訳はこちら → エフゲニー・オネーギン
動画はこちら → エフゲニー・オネーギン

デッカが50年代のステレオ初期にベオグラードで録音した7つのロシア・オペラのうちのひとつ。安い制作コストでニッチな分野に参入しカタログを充実させる戦略だったと思われます。このシリーズは近年オーストラリアでCD復刻されました。著作隣接権ですがかなりグレーなので後述します。



タチヤーナのヴァレリア・ヘイバルはヘイバローヴァと表記されることもあります。戦後ベオグラードのプリマとして活躍し、スロベニア人のカラスと呼ぶ人もいたようです。

チャイコフスキー:歌劇『エフゲニ・オネーギン』全曲

 ラーリナ/Mira Vercevic
 タチアーナ/ヴァレリア・ヘイバル
 オリガ/Biserka Cvejic
 フィリピエヴナ/メラニー・ブガリノヴィチ
 エフゲニ・オネーギン/ドゥシャン・ポポヴィチ
 レンスキー/Drago Starc
 グレーミン公爵/ミロスラフ・チャンガロヴィチ
 トリケ/Stepan Andrashevich
 Captain Trifon Petrovich/Aleksandar Veselinovic
 ザレーツキー/Ilija Gligorijevic

 ベオグラード国立歌劇場管弦楽団&合唱団
 オスカー・ダノン(指揮)

 録音時期:1955年9月5-9,11日
 録音場所:ベオグラード、House of Culture
 録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)

1年前にざっくりキリル文字の読み方を覚えたものの、アンダンテならいけるけど、アレグロになると歌を聴きながらキリル文字を追いかけるのはつらいです。

それでも、6年前のヴィシネフスカヤ盤のときには、歌のロシア語と字幕キリル文字が合ってなかったところを、今回かなり修正できたと思います。

ただし、オペラのラスト、オネーギン最後のセリフには参りました。リブレットも楽譜も「Позор! Тоска! О жалкий, жребий мой! (恥だ!苦しみだ!惨めなり、わが運命よ! )」となっています。もちろんヴィシネフスカヤ盤もそうだし、スポティファイで確認できたすべての音源もそうなってる。しかし今回のベオグラード盤はぜんぜん違う。

困り果てた末、ウチのロシア語担 chappi さまに泣きついたところ、見事に解決してくれました。「О смерть, о смерть, иду искать тебя!(おお死よ、おお死よ、お前を探しに行くぞ!)」ですって!『チャイコフスキー本人の手紙によると、この版ではグレーミンが部屋に入ってきてタチヤーナとオネーギンの関係を察してしまう結末で、グレーミン登場の間オネーギンに何か言わせるためにこのセリフを入れ』そして後に今の形に改訂したのだそうです。

もしやと思いアッティラ・チャンパイの参考書にあたってみると、ちゃんと書いてあるじゃないですか。

特に最後の詩句にはよく目を通してほしいのです。タチヤーナとオネーギンの会話の場面は、音楽と舞台との必要上、どうしてもはなはだしくドラマティックにせざるを得ませんでした。私の脚本に従えば、最後にタチヤーナの夫が入ってきて、身振りでオネーギンに立ち去るように命ずることになりますが、その場合、オネーギンはどうしても何か言わねばなりません。私は『おお死よ、死よ!お前こそ私の望むところ!』という詩句をあてはめたのですが、このせりふは私の気に入りません。このまずいせりふの代わりに何か別の言葉を持ってきたいのですが、いったいオネーギンになんと言わせればよいでしょうか。私には何も良い考えが思い浮かびません。

これがチャイコフスキーの手紙です。そして弟モデストは手記にこのように残しています。

この作品のスコアとビアノ・スコアとでは記入に相違がある。ピアノ・スコア(1878年刊行)では初稿のト書がそのまま記されており、『グレーミン公爵が入って来る。タチヤーナは彼を見るなり叫び声をあげて彼の腕の中に気を失って倒れかかる。グレーミンはきっぱりとした身振りでオネーギンに立ち去るよう命じる』となっている。しかし最終稿でのオネーギンの最後のせりふは『この恥辱、この悲しみ、おお、わが哀れむべき運命よ!』とされている。ところが1880年に刊行されたスコアでは同じト書の部分に、原典のオネーギンの最後のせりふ、『おお死よ、死よ、お前こそ私の望むところ!』がそのまま記されているのである。その後の版では、どれもストーリーの締めくくり方まで変えられている。現在のト書においては『タチヤーナ退場。オネーギンはしばらく疑惑と絶望のうちに立ちつくしている』となっている。

どうやら、かつては版に混乱があったようです。このベオグラード盤は現在演奏されているものとは異なる版を使っていた可能性があります。実は、このオネーギン最後のセリフ以外にも、何か楽譜と違う箇所が散見されるのですが(手紙の場にもある)、私の力ではどうにも合わせ切れないので放置しました。ご容赦ください。

さて著作隣接権の問題。オーストラリア復刻CDにははっきりと (P)1968 が見て取れます。このブログでは何度も触れているとおりパブリックドメインとなっているのは1967年までの音源です。しかし、1955年録音の音源が1968年発売というのも変ですよね。これは《マノン・レスコー》と同様、ステレオ初期にしばしば見られたモノラル盤とステレオ盤の発売時期の違いに由来するものと考えられます。このベオグラード盤は1955年発売の記録もあり、それがモノラル盤だったのでしょう。

しかし今回公開した音源はステレオです。とするとこれは違法でしょうか?

わかりません。モノラル盤を1955年に発売したとき、ステレオ・マスターをモノラルにダウンコンバートしたならこの動画は適法のように思えますが、残念ながらそうではないことはわかっています。オーストラリアのサイトには、録音技士として、モノラルはウイルキンソンが、ステレオはウォーレスが担当したことが記録されています。つまり、ひとつの演奏をふたつのマスターに録音したということでしょう。

だったら、今回の動画をモノラルにダウンコンバートして上げればよかったのか?それもバカバカしいので、違法の可能性がありつつも、公開してしまいました。将来この動画を落とす可能性もあることをご理解ください。

今月初台で公演があります。テキスト対訳・動画対訳を予習・復習にお役立てください。

ピョートル・チャイコフスキー『エウゲニ・オネーギン』全3幕
〈ロシア語上演〉〈日本語及び英語字幕付〉

2024年1月24日(水)18:30
2024年1月27日(土)14:00 バックステージツアー有
2024年1月31日(水)14:00 バックステージツアー有
2024年2月03日(土)14:00 託児サービス利用可

新国立劇場 オペラパレス
予定上演時間:約3時間5分(休憩含む)

タチヤーナ:エカテリーナ・シウリーナ
オネーギン:ユーリ・ユルチュク
レンスキー:ヴィクトル・アンティペンコ
オリガ:アンナ・ゴリャチョーワ
グレーミン公爵:アレクサンドル・ツィムバリュク
ラーリナ:郷家暁子
フィリッピエヴナ:橋爪ゆか
ザレツキー:ヴィタリ・ユシュマノフ
トリケ:升島唯博
隊長:成田眞

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団

指揮:ヴァレンティン・ウリューピン
合唱指揮:冨平恭平
演出:ドミトリー・ベルトマン
美術:イゴール・ネジニー
衣裳:タチアーナ・トゥルビエワ
照明:デニス・エニュコフ
振付:エドワルド・スミルノフ
舞台監督:髙橋尚史

このプロダクションでは、1回目の農民の合唱を舞台裏で歌わせ、2回目の「バイニュ」の合唱はカットしてました。これで農民の登場シーンをなくし、農民の衣装を用意せずに済ませたようです。

エフゲニー・オネーギン
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